2009'04.30.Thu
地平線近くに来た日が空を橙に染める頃。
台所で夕食を準備する寮長に一言伝えて、寮を出た。
台所で夕食を準備する寮長に一言伝えて、寮を出た。
しゃがみこんでぬいぐるみを抱いた少年は
土砂降りの中、地に落ちた枝葉を濡らし。
真っ暗闇の中、月と星は曇り空の向こう。
迷子なら、泣きながら岐路を探すだろう。
雨宿りは、少し先にある堂に入ればいい。
この辺りに家は無い、この竹薮は広い…、
…まったく人間とは厄介な物を抱える、
本能で生きれば困る事はないだろうに、
抱えた猫を撫でながらゆるりと近づく。
「行く先が無いのならー、ついておいで。」
赤い傘を傾け、その陰に雨が一時止んだ。
ガタゴトという音と揺れで、目が覚めた。
昔の頃の夢…ぼんやりとした頭を軽く振る。
辺りを見回すと車内には自分しか居なかった。
向かいに居た、背負い鞄の草臥れた風な男も
いつの間にか降りてしまったようだ。
窓の外には星と少しだけ家の明かりがちらほらする田舎道。
日が落ちた空を見、もう少し早く出ればと溜め息をつく。
懐から出した、よれよれの茶封筒。
届いてから一ヶ月が経ってしまったそれに目を通していると
目的地に着き、慌てて荷物を抱えて降りる。
日が沈んだ駅に降りると少しの明かり、それも駅前まで。
少し歩いた所にある鳥居。
その奥へ広がる竹薮を見据えて懐中電灯を出した。
「確かこのお地蔵さんを右に曲がって
次のを見ながらまっすぐ…無い?!」
歩いてしばらく、…自分が迷子になった事に気づく。
降り出した雨と暗闇にちょっと泣きそうになる。
傘持ってくればよかった…寒い。
人気が無いのを確認すると、アサリを出す。
丁度目に落ちた雨粒に目をこすり体を震わせた白もこは、
情けない相棒の目をなめ、ついでに頬を甘噛みされる。
痛いーと少し笑ってから、濡れないように羽織の中に呼ぶ。
「…君は変わらないなあ、またそんな…」
声のする方、提灯が赤い傘をさした男を照していた。
「あー先生!」
歓喜の声を上げ、恩人であり師である男の元へ駆け寄ると
どうせ迷子になったんだろう、など言われて苦笑する。
「ちゃんと恩返ししに来ました!」
「4月今日で終わりだよー?」
「だってお化け怖くて!つい。」
「君の少ない特技の一つだというのに、もったいないなあ」
これからしっかり生かせるぞーと、にんまり笑われると
へたれた笑顔で答え、師の歩く先へ着いて行った。
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